2,500 – 10,000 SHU
(TAMマイルドという品種であれば1,000SHU前後(後述))
原産地 メキシコ
メキシコ・ベラクルス州のハラパという街に起源を持つハラペーニョ(Jalapeño)。トウガラシ好きでなくとも、その名を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。比較的新しい品種でありながら、海外ではハバネロなどに並んでトップクラスに有名なトウガラシの一つです。
この記事ではそんなハラペーニョに関する知識を、トウガラシの専門家が一つ一つ解説していこうと思います。
そもそもハラペーニョっていったい何なの?
端的に言うと、ハラペーニョはトウガラシの品種の1種です。例えばみなさんがよく家庭で使われているトウガラシは鷹の爪と呼ばれたりしていますが、タカノツメもトウガラシの総称ではなく実は品種の1種です。
日本ではあまり馴染みはありませんが、欧米ではハラペーニョはトウガラシの王様とも言える存在で、ピーマンを更に濃くしたキュウリのような濃緑色と、パプリカのような肉厚な食感、太った弾丸のような外観が特徴です。
濃緑色が一般的ではありますが、他のトウガラシと同じように完熟すると赤色になります。
欧米ではメジャーな品種
日本ではあまり馴染みがありませんが、ハバネロと並びトウガラシの中で最も知名度が高いであろうこの品種は、欧米では辛さを表す時に「ハラペーニョの◯◯倍辛い」という表現によく使われます。
ハラペーニョの原産地はメキシコのハラパという街ですが、実はハラパではもはや育てられていません。ですが、メキシコの他の地域では広く栽培されており、メキシコ内の3つの農業地区で約40,000エーカー(161,840,000平米)の農地がこのタイプのトウガラシの栽培に充てられています。
何で欧米だとそんなに人気なの?
欧米で人気なのは「TAM・マイルド・ハラペーニョ」という品種のおかげです。もともとハラペーニョは(特にアメリカ人にとっては)辛い唐辛子の代表格という存在であり、日本人が「鷹の爪」をトウガラシの総称として使用するような感覚の唐辛子です。ハラペーニョは辛さを表すスコヴィル値(SHU)が2,500〜10,000SHUという比較的辛くないトウガラシ(参考:鷹の爪は30,000〜50,000SHU)でしたが、それでもアメリカ人にとっては辛かったようですね。
ではハラペーニョが人気なら、「アメリカ人はそんなに辛いものが好きなのか?」という話になりますが、実はそうではありません。実は辛さの代表格であるハラペーニョは広く国民全員に好まれるものとは言い難いものでした。そこでTAMマイルドという品種が登場します。「ドクターペッパー」と後に呼ばれるようになるテキサスA&M大学のヴィラロン博士が1981年に発表したこの品種は、2,500SHU以上という今まで辛いものの代表格であったハラペーニョを1,000SHU前後まで落とし込んだため、爆発的な人気を生むことになりました。
激辛の代表格であったハラペーニョをピリッと辛いかな程度の辛さまで抑え込んだため、今までは辛いものが好きな人以外には食べられなかったハラペーニョが、一般人に広く食べられるハンバーガーやピザなどに大いに利用されるようになりました。また他にもチーズに練り込んだりされたり、もちろん家庭料理にも使用されています。
辛いものを食べる習慣がなかった欧米で、辛すぎずマイルドなTAM・マイルド・ハラペーニョは、「ホット」ではなく「スパイシー」さを求める消費者の需要にピッタリとはまり、欧米でのトウガラシの代表格となりました。
なら何で日本だとあまり知られてないの?
北米でもハラペーニョがメジャーな存在になったのは1981年のTAMマイルドが発表されたあとですので、日本の食文化に入ってくるには少し遅すぎたと考えられます。
仮説ですが、日本人にとってはトウガラシは鷹の爪のようにある程度辛さが有り、果肉は薄めのものという固定観念があるのでしょう。そのためハラペーニョは日本料理で鷹の爪の代わりに使われることはないですし、パプリカのように肉厚で辛い唐辛子を利用した料理というものが日本食に存在しなかったため、ハラペーニョが既存の日本料理に使われることは無いと思われます。
また今は見る影もないのですが、実は昔の日本はトウガラシ生産大国でした。そして国内で生産された鷹の爪など国産品種が十分に日本に流通していたため、国内生産でわざわざハラペーニョという品種を取り入れる必要がなかったのでしょう。またハラペーニョは肉厚な品種(=水分含有量が多く痛みやすい)という特徴もあり、輸入するのも難しいという難点もあります。
TAMマイルドのような品種がもっと以前に存在し、種子が日本に入っていれば、おそらくもう少し日本でも馴染みのある品種となったのではないでしょうか。
ハラペーニョは(おそらく最初に)宇宙にも行ったトウガラシ
海外ではハラペーニョ好きがたくさんおり、有名人やセレブにも愛されています。その中の1人に宇宙飛行士のビル・ルノアール(Bill Lenoir)もいます。
彼は同僚の宇宙飛行士シェアウッド・C・スプリングが育てたハラペーニョを1982年にスペースシャトル「コロンビア」に持ち込み、管制センターとの通信で「ウッディ(シェアウッド)にお前のハラペーニョは最高だぜ!と伝えておいてくれ」と発言したというエピソードが有名です。
ハラペーニョの辛さ
ではそんな欧米で大人気のハラペーニョですが、実際のところ辛さはどのくらいなのでしょうか。
普通のハラペーニョが2,500〜10,000SHU、マイルドに品種改良されたTAMマイルドが1,000SHUとご紹介しましたが、これだけでは頭の中で全然イメージできないと思います。
ですのでいくつか比較対象を用意しました。
スコヴィル値(SHU)
シシトウ・ピーマン・パプリカ:0
TAMマイルド・ハラペーニョ:1,000〜1,500
普通のハラペーニョ:2,500〜10,000
デスソース:10,000
鷹の爪:30,000〜50,000
プリッキーヌ(タイの唐辛子):70,000
ハバネロ:350,000
SB-カプマックス(国産最高値):650,000
ブートジョロキア:1,100,000
キャロライナ・リーパー:2,200,000
どうでしょうか。
そうなんですよ。ハラペーニョって全然辛くないんです。
ハンバーガーの中やピザの上にピクルスでたくさん乗ってるくらいの品種ですので、辛さは「ホット!」ではなく「スパイシー」という表現が似合う程度の辛さに抑えられています。そのため、(日本ではあまり手に入れることができませんが)唐辛子好きへの入門編としてはピッタリの唐辛子なんです。
海外ではハバネロと並んで有名な品種ですが、通常で70倍近く、個体差によっては100〜200倍くらい辛いので辛さとしては比較にすらならないレベルです。
また以下のページにその他出来る限りの唐辛子・ホットソースの辛さをリスト化してありますので、是非参考にしてみてください
味と食感・香り
ハラペーニョはとても多肉質なトウガラシです。鷹の爪のような、アジアやアフリカなどの他の地域で消費されている日本人にとって常識的な「唐辛子」と比べると圧倒的な多肉感があります。食感としてはパプリカに近いですね。
味はハバネロがフルーティなのに比べると、ハラペーニョはトウガラシそのものの風味は少なめです。ハバネロ系のフルーティな風味に慣れている人がハラペーニョを評すると、「味のしない唐辛子」と呼ばれてしまうほど風味は少なめです。
パプリカのように食感は良いので、あら目の角切りにして、野菜のような風味と食感を楽しみましょう。
なお通常、ハラペーニョは熟しきる前の緑色の段階で収穫をします。生で食べる場合は、完熟し赤色になってしまったものは「好んで食べる人はいない」といったレベルなのでおすすめできません。ピクルスにする場合も緑色のものを使うことがほとんどです。赤い完熟したハラペーニョは緑色のものと比べるとかなり甘く、次の項目でご説明するチポトレを作るのに用いられます。
使い方
ハラペーニョの使い方は実に様々です。ピクルスにしたり、ピーマンの肉詰めのように詰めものをしたもの、パン粉をまぶしてしっかりと揚げたものを楽しむ人もいれば、フレッシュなものやシンプルに他の料理の風味を豊かにするために加えられたものを好む人もいます。
個人的には一番オススメなのはピクルスで、二番目が肉詰めですね。ミンチにした肉にチーズを混ぜて焼くと美味しいですよ。
またハラペーニョの最も一般的な使用法の一つにチポトレがあります。チポトレとはトウガラシの燻製のことです。
チポトレは独自の特徴的な収穫方法で収穫されます。
ハラペーニョをチポトレにしたい場合、ハラペーニョがしぼんで自然乾燥するまで、農地で枝につけたままにしておきます。その後収穫し、それらを密封された燻製室に入れます。全てのハラペーニョがまんべんなく煙でいぶされるように、ハラペーニョ達は定期的にかき混ぜられます。3日から4日後でハラペーニョはチポトレとなり、調理に使用できる状態になります。
このチポトレは北米で特に高い需要がある製品です。特にメキシコ料理やテクス・メクス料理(メキシコ風のアメリカ料理)で非常によく使われており、実際にそれらのレストランではあらゆる料理に何らかの形でチポトレが使われています。記憶になくとも、メキシコ料理やに行ったことがある方であればタコスやナチョス、トルティーヤやブリートなどでみなさんも一度は口にしたことがあると思われます。
ハラペーニョが買える場所
ハラペーニョは前述の通り、日本で一般的に流通しているとは言い難いのが現状です。
日本国内でのハラペーニョの入手方法については以下の記事にまとめてありますので、ぜひこちらを参考に頑張って手に入れてみてください。
栽培
ハラペーニョは播種後約3ヶ月ほどで収穫できるようになります。約90センチほどの高さになり、多くて約30個のサヤを付けます。実の長さは5〜9センチほどで、ポッド状の形をしています。シーズン中は、多くの実を収穫することができます。果実の成熟の終わりに向けて、色は緑から赤くなり始めます。このトウガラシは程よく乾燥した気候の中で一番よく育ちますが、暑く湿った地域でも繁茂します。
豆知識:ハラペーニョの発音と英語読み
ハラペーニョ(Jalapeño)はJから始まりますが、これは「ハラペーニョ」という言葉がスペイン語だからです。スペイン語ではJはハ行の音で発音します。
詳しくは以下の記事を参考にしてください!