料理に深い辛みを与える調味料としてだけでなく、蕎麦やうどん等の薬味としても日本の食事のお供には欠かせない唐辛子。スーパーなどで日本全国どこでも手軽に手に入る唐辛子ですが、一体どこで生産されているのでしょうか。
国産の唐辛子が多いのか、それとも輸入されているものが多いのか。この記事では国内の唐辛子の産地と生産事情について、ご紹介していきます。
唐辛子の国内の産地ベスト5
平成31年(2019年)の1月31日に、農林水産省による平成28年(2016年)の「地域特産野菜生産状況調査」(隔年調査)が発表されました。この統計による「とうがらし(辛味種)」の都道府県別の生産量・出荷量は、以下のようになっています。
収穫量ベース上位
・「とうがらし(辛味種)」の収穫量上位5位
順位 都道府県 収穫量 割合(シェア)
1 位 福岡県 25トン 15.82 %
2 位 兵庫県 20トン 12.66 %
2 位 栃木県 20トン 12.66 %
4 位 東京都 14トン 8.86 %
5 位 大分県 11トン 6.96 %
全国合計158トン
出荷量ベース上位
・「とうがらし(辛味種)」の出荷量上位5位
1 位 福岡県 20トン 13.61%
1 位 兵庫県 20トン 13.61%
3 位 栃木県 18トン 12.24%
4 位 東京都 13トン 8.84%
5 位 大分県 11トン 7.48%
全国合計147トン
この統計結果では北海道でも収穫量・出荷量共に8トン、沖縄は収穫量4トン・出荷量3トン、他の多くの地域でも唐辛子の生産が行われています。量の差はあるものの、北から南まで幅広い地域で唐辛子が生産されていることが分かります。
また収穫量は2014年では181トン、2016年では158トンで、-12.7%の増減率となっています。
都道府県一覧データ
作付面積(ha)、収穫量、出荷量の都道府県ベータはこちらです。
(項目をクリックで数値順になります)
作付 面積 (ha) | 収穫量 | 出荷量 | ||
---|---|---|---|---|
0 | 全国 | 69 | 158 | 147 |
1 | 北海道 | 1 | 8 | 8 |
2 | 青森 | 2 | 4 | 4 |
3 | 岩手 | 3 | 1 | 1 |
4 | 宮城 | 0 | 1 | 1 |
5 | 秋田 | - | - | - |
6 | 山形 | 1 | 4 | 4 |
7 | 福島 | 1 | 0 | 0 |
8 | 茨城 | 0 | 0 | 0 |
9 | 栃木 | 5 | 20 | 18 |
10 | 群馬 | 1 | 1 | 1 |
11 | 埼玉 | 5 | 2 | 2 |
12 | 千葉 | 0 | 0 | 0 |
13 | 東京 | 3 | 14 | 13 |
14 | 神奈川 | 1 | 2 | 2 |
15 | 山梨 | 0 | 0 | 0 |
16 | 長野 | 1 | 3 | 2 |
17 | 新潟 | - | - | - |
18 | 富山 | 0 | 0 | 0 |
19 | 石川 | 1 | 3 | 3 |
20 | 福井 | - | - | - |
21 | 岐阜 | 0 | 1 | 1 |
22 | 静岡 | - | - | - |
23 | 愛知 | 0 | 0 | 0 |
24 | 三重 | - | - | - |
25 | 滋賀 | 0 | 0 | 0 |
26 | 京都 | 2 | ||
27 | 大阪 | - | - | - |
28 | 兵庫 | 7 | 20 | 20 |
29 | 奈良 | 3 | 3 | 3 |
30 | 和歌山 | 0 | 2 | 2 |
31 | 鳥取 | - | - | - |
32 | 島根 | 2 | 4 | 4 |
33 | 岡山 | 1 | 3 | 3 |
34 | 広島 | 0 | 1 | 1 |
35 | 山口 | 0 | 0 | 0 |
36 | 徳島 | 1 | 2 | 2 |
37 | 香川 | 1 | 2 | 2 |
38 | 愛媛 | 0 | 1 | 1 |
39 | 高知 | 1 | 6 | 6 |
40 | 福岡 | 8 | 25 | 20 |
41 | 佐賀 | 0 | 0 | 0 |
42 | 長崎 | 1 | 0 | 0 |
43 | 熊本 | 1 | 1 | 1 |
44 | 大分 | 6 | 11 | 11 |
45 | 宮崎 | 2 | 8 | 8 |
46 | 鹿児島 | 6 | 1 | 1 |
47 | 沖縄 | 2 | 4 | 3 |
(京都は収穫量不明)
日本での消費量の9割以上は輸入品
日本では1963年頃には年間7,000トンの生産量があったといわれています。しかし現在では生産量の合計は2016年の時点でわずか158トンとなっています。およそ44分の1の生産量となってしまっているのですね。
かといって日本での唐辛子の消費量や需要が激減したわけではなく、現在では唐辛子の消費量の9割以上を輸入に頼っており、唐辛子の国内自給率はおよそ3%だといわれています。
2018年の最大の輸入先は韓国で、次にニュージーランド、オマーン、オランダと続いていきます。
ちなみに2017年の世界の唐辛子・ピーマン類生産量の国別ランキングでは、1位の中国が17,795,349トン、2位のメキシコが3,296,875トン、3位のトルコが2,608,172トンで、中国が断トツの1位を誇っています。
唐辛子の生産に力を入れている日本の地域も
昔と比べて唐辛子の生産量が激減してしまった日本ですが、そのような状況でも唐辛子の生産に力を入れている地域もあります。
ここで日本の市町村での唐辛子の生産状況はどうなっているのかを見てみましょう。平成28年の収穫量上位5位の都道府県において、主要市町村の唐辛子作付面積の割合は以下のようになっています。
・収穫量上位5位の都道府県における、作付面積の主要市町村割合ベスト3
福岡県
川崎町:51%
豊前市:13%
東峰村:9%
兵庫県
丹波市:49%
神戸市:48%
稲美町:3%
栃木県
大田原市:100%
東京都
八丈町:10%
あきる野市:8%
町田市:7%
大分県
九重町:34%
日田市・臼杵市・日出町:17%
このデータで目を惹くのは、栃木県の唐辛子はその100%が大田原市で作られているという点です。
栃木県は都道府県別の収穫量で2位、出荷量でも3位に入っているほどの、日本国内での唐辛子の一大生産地です。栃木での唐辛子生産を一手に担う大田原の唐辛子とは、どのようなものなのでしょうか。
とうがらしの郷 大田原
大田原で栽培されている唐辛子は「栃木三鷹唐辛子(とちぎさんたかとうがらし)」です。これは昭和30年(1955年)に同市の食品会社・吉岡食品の吉岡源四郎が八房系品種より分離した、大田原発祥の唐辛子です。
栃木三鷹唐辛子の主な特徴としては辛味が強く、成熟すると鮮やかな赤色となり色調が良いことが挙げられます。また摘み取りや乾燥作業も容易で保存にも強い等、栽培や流通面で優れている点も、大田原市で多くの唐辛子が生産されている理由の一つと言えるでしょう。
また大田原市の観光協会でも「とうがらしの郷 大田原」として、唐辛子を大々的にアピールしています。
大田原市では、昭和初期から唐辛子を生産しています。日本の唐辛子生産のピーク時である昭和38年(1963年)頃には全国一の唐辛子生産量を誇り、日本の唐辛子生産を支えていました。
このように唐辛子と大田原市とは、非常に深い関係があります。そこで大田原市では唐辛子に着目して、平成15年(2003年)からは「とうがらしの郷」の復活を目指した事業を展開しています。
まず「全国に誇れる唐辛子食品」を創出するため、「とんがらしラーメン・とうがらし餃子・とうがらしどら焼き・とうがらし羊かん」など、様々な商品を開発・販売。
平成18年(2006年)には大田原商工会議所の会員によって、「大田原とうがらしの郷づくり推進協議会」を発足し、平成28年、29年には新規の唐辛子栽培者説明会を開催しました。
また令和元年(2019年)の6月24日には同協議会(吉岡博美会長)が、大田原市の唐辛子の生産量が全国の市町村のトップになったとして、「唐辛子生産量日本一」を宣言しています。
これは同協議会が農林水産省のデータを独自に分析した結果となっています。
都道府県別で1位の福岡県の収穫量が25トン、川崎町の作付面積が51%。
一方、栃木県の収穫量が20トン、大田原市の作付面積が100%であることが根拠となっているそうです。
日本で愛され続けている唐辛子
日本での生産量は以前と比べて大幅に減ってしまった唐辛子ですが、唐辛子そのものは現在でも変わらず愛され続けています。
蕎麦やうどんが好きな日本人には一味唐辛子・七味唐辛子は欠かせません。京都の七味唐辛子や、沖縄の島とうがらしを用いた「コーレーグス」という調味料もお土産品として人気です。
現在は海外の唐辛子も手に入りやすくなっています。国産の唐辛子と海外産の唐辛子の味や特徴を比べてみるのも面白いですね。